2011年12月01日

リクエスト話 神狩り 番外

だいぶだいぶ以前になってしまいましたが、アンケートにて、りこさまよりリクエストをいただいたものです。

「月陰〜朔日ノ月あたりで、ダイゴが、TPC運輸局にいた頃もしくはGUTSに入ってすぐ(ティガに会う前)を回想する話。」



大変大変遅れているうえに、
なんかちょっと、話がずれている気もするのですが。(っていつものことか・・・。)

ビルダーが使えるようになったら、サイト上に移したいと思いますが、とりあえず日記のほうで公開させていただこうと思います。

りこさま、大変大変遅れまして、申し訳ございません。
お気に召していただければ、幸いでございます・・・。





もう一度、今回の積載物のチェックレポートに目を通していると、インカムを通して、誰かが自分を呼ぶ声がした。


喜多見。
喜多見が呼んでいる。

そうか、トレーラーが着いたんだ。
ダイゴは、
「今いく!」
と答え、走り出そうとした。
見上げれば、巨大な倉庫のようなガレージには、輸送用の巨大なトレーラーや輸送機、機材が、所狭しと何台も並んでいる。
喜多見の待つトレーラーは、B-2だ。
ダイゴは足取りも軽やかに走り出した。
それにしても、同型のトレーラーだというのに、どうして自分のトラックを見間違えることがないのか、ダイゴは急に不思議に思った。
その瞬間、薄暗いガレージの中に、遠くにフルオープンしたシャッターの向こう側の抜けるような空の青が急に刺し込んでくるようで、ダイゴは息をのんだ。












夢を。

夢を見ていたのだ。









ダイゴは、ぼんやりと目を開けた。
まだ夢と現の区別が曖昧だ。

見慣れない天井に暫し戸惑い、一瞬迷ってから、そうだ、自分の私室だった、と思い出した。

そうだ。
夢を、見ていたのだ。

輸送班にいたときの。
輸送班にいたころの、・・・夢。

なんだか、今考えると、あれこそが夢だったのではないかと思えてくるような、平和な。夢。

ゆっくりと、思い起こす。


そうだ。

今は、もう、輸送班に籍はない。

・・・輸送班から、GUTSに所属が移って、そして怪獣が出現して、そして・・・。

・・・光となって・・・ティガとなった。

怪獣と戦った。
来る日も。来る日も。
ダイゴとして、ティガとして。

ダイゴとしての記憶だけではなく、ティガとしての記憶まで奔流として蘇る。
ゴルザ。
メルバ。
キリエル。
ガゾート。

数え上げればキリがない気がする。


ギジェラ。
ゾイガー。

そして、・・・闇・・・。
それから、ガタノゾーアと戦って、みんなが光となって、・・・・・・それで・・・・・・。




ダイゴは、ふう、とため息をついた。
なんだか全身がだるい。
瞼も頭も重い。
首を横に傾けるとくったりと伸ばした自分の腕が見える。
指を握ったり開いたりしてみると、ぼんやりと光を放つのが見えた。

「なんだかなあ・・・。」

もう一度ため息をついてから、のろのろと体を起こす。
頭をぼりぼりと掻く。
ええと、今日のスケジュールはどうだったっけ。
今、GUTSの任務は殆ど与えられていない。
とにかく、早く体を治せ、ということなのだろう。
光の研究室ですら、コンタクトがほとんどない。
よって、スケジュールは白紙に近い。

ダイゴは、もう一度、ため息をついた。




先日、キリノマキオに会ってきた。
いつかと同じ、人のいない競馬場だった。
青々とした草が美しかった。

キリノマキオは笑いながら言った。
『人間になりたいなら、人間になればいいんだよ。』
『君は、いつも決断してきていたじゃないか。
人としてできることをやろう、好きな仲間を守ろう、自分の信じることをやろう、ってね。』
『だったら、また、決めればいいのさ。自分は人間だ、ってね。』
『それは、君が教えてくれたんだよ。』

胸がきゅうと締め付けられた後、それは温かさを伴った実感となって、ダイゴを包んだ。
思わず口端が上がり、くすりと笑みが漏れる。
「『人間になりたいなら、人間になればいいんだよ。』・・・か。」



輸送班にいたときは、何も考えることはなかった。
ただひたすら、目の前にある問題をクリアすることだけを考えていた。
輸送班Bチーム。
ペアを組んでいた喜多見。
毎日毎日の課題に、二人で、チームで、必死に取り組んだ。
定時連絡に加えて、緊急呼び出しも多かった。
怪獣が現れるようになってからは、余計。

警務局の人員も武器も物資も、毎日のように現場に運んだ。
現場と基地の往復。
積載人員や積載物資を正確に積み込み、世界中に散らばる届け先に定刻通りに輸送する。
スケジューリングはジグソーパズルの様だったし、
積載人員や物資の搭載は、緻密な計算が必要だった。
誤りのないように載せるためには、何度も確認が欠かせない。
ピストンで輸送できるものだけではない。
各国TPCの輸送班と協力しながら、リレー方式で輸送するものも多かった。
緻密なスケジュールと綿密な計算と精確な運転技術、頻繁な連絡と煩瑣に過ぎるほどの確認。
それらが、すべて歯車のようにかっちり噛み合って初めて、輸送班の仕事は成立するのだ。
そして、ダイゴと喜多見は、それをやってのけた。
時にはチームで、時には二人で。
次から次へと矢継ぎ早に入る指示に、二人で頭を突き合わせ、怒鳴りあい、笑いあい、助け合って、過密ともいうべきスケジュールを精確にこなした。
次々に発表される新しいスケジュールに悲鳴を上げ、それを喜多見と笑い飛ばし、機材を搭載し、人員を積載し、ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。トラックも、トレーラーも、輸送機も、ときにはバイクも使ってあらゆる資材と人員を輸送した。
眠い目を擦りながら、必死にレポートを提出した。
アクシデントに見舞われて定刻につかずに、ひいひい言いながら始末書を書いたことだってあった。
それもこれも、事が終わった後では、チームで、みんなで、笑い合った。
武器を持たない輸送班は、警務局の中では凡庸で平和に過ぎると思われている節すらあった。
それでも、毎日が必死で、毎日が充実していた。
その凡庸さと繰り返しこそが、輝いていた。
そして、それだけがダイゴのすべてだった。



「ふふ。」
ダイゴの口から笑みが漏れた。
「楽しかったよなあ、Bチーム。みんな、元気にしてるかなあ・・・。
喜多見、辞めちゃったんだよなあ・・・。今ごろ、どうしてるかなあ・・・。」

自分がこんな大きなうねりの中に巻き込まれるとは思ってもみなかった。
もちろん、GUTSでの生活も楽しかったし充実もしていた。
ティガになったことだって、驚きこそすれ、後悔したり、恨んだり、そんなことはない。

ただ。
少し、迷いが生じただけで。


強い光だった。
そして。

強い闇だった。





ダイゴは、きり、と奥歯を噛み締める。
ガルラが出現した時にキリノマキオに出会った。
あのころは、まだ迷いがなかった。
いや、まったくなかったわけではなかったけれど、それでもまっすぐに、ひたすら前をだけ向いていた。

迷わないでいられるということは、なんと楽であったことか。

ダイゴの記憶。
ティガの記憶。

奔流のような記憶にダイゴは息を殺す。
迷わないということの罪深さを、今は知らないわけではない。
それでも、それを懐かしく思い出すくらいの権利はあるはずだ。
渦巻くような罪悪感は、決して正しくはないだろうが、今、ここにある現実なのだ。

Dプロジェクトで何度も聞かれたことは、自分の中の問いでもあった。
ティガの力とは何なのか。
そして、自分は何者なのか。
光は自分を侵食してしまうのか。
自分は、これから本当に人間として生きていくことはできるのか。




「ちぃ!」



鳥の声にはっとして、ダイゴは顔を上げた。
気づけば、締め切ったブラインドの向こう側の光が徐々に強くなってきている。

そうか。
朝が来ているのか。

ううーん、とダイゴは伸びをした。
さ、起きるか。
素早い仕種でベッドから降り、ブラインドを上げた。
朝の光がさあっと部屋を満たす。
ちちち、と嬉しそうに鳥が鳴くのに笑顔を向けてから、よし、と頷いて、洗面台に向かい、顔を洗う。
冷たい水に、気分が引き締まる。
ざばりと水を切って顔を上げると、鏡に映った自分の向こうに机の上に置いたケースが目に入った。
一瞬、なんだか息をのんでしまい、ダイゴはしばらくそのケースを鏡越しに見つめた。
漸く、タオルで顔を拭いて机に歩み寄る。

小さな、臙脂色の天鵞絨で覆われた、美しいケース。

そっと手に取ると、ケースは小鳥のような重さでその存在を主張した。
ケースをそっと開く。
小さいけれど、ダイヤモンドが埋め込まれたそれは、きらきらと朝の光を反射した。
レナから受けたプロポーズに応えるべく、先日、宝石店で指輪を購入したのだ。
『ええっ、いいよ、そんなの・・・。』
恐縮するレナに、ダイゴは笑って答えた。
『そんなこと言わないでよ。オレがしてほしいんだからさ。』
刻印ができたから、と連絡を受けて、昨晩、こっそり宝石店に取りに行った。


「いつ、どうやって渡せばいいのかな。」
指輪をそっと取り上げ、目の上に翳して見ると、D to R の刻印がダイゴの目を射た。


『人間になりたければ、人間になればいい』
キリノマキオの声が聞こえる。




そうか。
そうだったのか。




ダイゴはやっとゆったりとほほ笑んだ。

レナのおかげで、俺はちゃんと人間に戻れるのかもしれないな。
ダイゴはもう一度微笑んで、指輪をそっとケースにしまった。




posted by イラ at 11:51| Comment(0) | 小話
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