2010年10月31日

ギムナジウムで小ネタ

ギムナジウムのさらに番外編
先生たちの若かりし日

ゐ −欠番ー 
題名未定@ウィーン






まさか、こっちでヒガシに遭うとは思わなかった。
しばらくお互いにじっと目を合わせて見つめあってから、思い切り息をついた。
息をするのを忘れるっていう体験を、こんな若いうちにするとは思わなかった。

「お前、コメ喰ってないんだろ。うちに来い。」
「・・・おう。」

『よお!』とか、『久しぶり!』とか。
そういうのもなしに、コメ、かよ!
1年ぶりにばったり再会した友人への第一声が、コメ、か?

それでも、俺は、ヒガシの後ろをてくてくと黙ってついて歩いた。



ウィーンに来て1年。
ヒガシはパリに行ったんだと思ってた。


1年ぶりに見るヒガシの後ろ姿。

日本にいるときは、よく喧嘩した。
最後の最後まで喧嘩して、振り返らないヒガシの背中に向かって罵声を浴びせた。
もう、このまま会えないと思って、部屋に帰ってわあわあ泣いた。
一人部屋でよかった、とあのときほど思ったことはなかった。

ヒガシが日本を立つとき、俺は空港にも行かなかった。




相変わらず、整理整頓されたピカピカのヒガシの部屋。

「おら。」
「おう。」

白くて、ほかほかの湯気を立てている米。
コメが立ってる、ってのはこのことか、って実感するような、ピカピカの白いコメ。
1年振りのご飯は、それはそれはうまかった。
どうやって手に入れたんだか、明太子まで上に乗せてくれたそれは、感動的にうまかった。

「お前、よっぽど餓えてたんだな。喰いっぷりが欠食児童なみ。」
「黙れ。」
黙ってくれてないと、返事ができなくて、余裕が無いのがばれるじゃねえか。
ムカつくんだよ、お前。

「うまいだろ?久しぶりなんだろ?コメ。」

「・・・もうちょっと綺麗に食えよなあ、せっかくのコメなんだから。
俺だって、これ、手に入れるの、結構苦労するんだぜ?
ほらほら、また米粒落とした。」

「・・・聞いてんの、ニシキ。」

黙々と丼ぶりをかっこんでいると、ヒガシが溜息をついた。

「お前が植草の言うこと、聞かないから。」

箸が止まった。

「植草が必死に調べてくれたってのに、お前、全部無視したろ。
炊飯器は必須だって、あいつ、言ってたじゃねえか。
鍋で炊く余裕なんてないだろ、俺たちに。」
ヒガシがもう一度ぼやいた。

ごくりと固い何かを呑みこんでから、口を開いた。
目は米にロックオンしたまま。
「お前、植草と連絡取ってんの?」
俺の呟きをヒガシはちゃんと聞きとったらしい。
「ああ。」
「・・・・・・。植草、元気なの?」
「ああ。」
「・・・・・・。そっか。」

それだけ言って、俺は再び米をかきこんだ。
なんだか視界がぼやけて、塩味が強くなったが、気づかないふりをして米をかきこみ続けた。
「ニシキ。お前・・・。」
「コメがうまいんだよ。」
俺のやけくそな呟きに、ヒガシがため息交じりに「なるほど。」と答えて、それから会話が途絶えた。
ヒガシがじっと俺を見ているのは知っていたが、俺は無視してひたすら米をかきこんだ。
ヒガシが沈黙を保つから、部屋中に俺の箸と茶碗がこすれる音だけが響く。


なんか言えよ、バカ。


だから、ヒガシは嫌いなんだ。


posted by イラ at 21:45| Comment(0) | 小話
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